オーナーは、井澤卓（いざわ・たく）さん。空間設計やグラフィックなどを手掛けるクリエイティブプロダクション「& Supply（アンドサプライ）」の代表を務めながら、池尻大橋と代々木上原で飲食店を経営しています。飲食店の前には、自宅とシェア用に購入したマンションをAirbnbで貸し出していた経験も。ホテル宿泊が趣味で、いつか自分でホテルを建てるのが夢。

小さな個人店が立ち並ぶ、池尻大橋の駅から徒歩2分。
カラフルな壁画が描かれた路地裏に、一軒のストリートバーがひっそりと佇んでいます。その名は「LOBBY」。

ホテルのロビーのようにさまざまな人が介在し、肩肘張らず、思い思いの使い方ができる場所を目指して、2019年につくられました。
運営している「& Supply」は、実はデザイン会社。社員が夜のみお店に立ってバーを営業し、空いている昼の時間帯は撮影やギャラリー用に貸し出しをしています。メゾネット構造になっている2階は、井澤さんたちが事務所として使っています。
もともとは住居だったこの物件。フルリノベーションをし、内装・設計も「& Supply」のメンバーが担当しています。
鮮やかなグリーンのサッシを開けて目に入るのは、大きなバーカウンターと無数に並ぶお酒の瓶たち。

ワイルドな印象の床部分、いわゆる「捨てコン」と呼ばれるもの。本来は、その上にモルタルを流し込んで仕上げますが、設計の際にあえてこのままで行くことにしたのだそう。 それによって屋内であるにも関わらず、屋外のような雰囲気に。扉で隔てているものの、外と中の境界線が曖昧に感じるのも面白いですよね。
立ち上げ当初から、昼の時間帯をタイムシェアする前提でつくられているため、店内はバーだけでなく幅広い用途に対応できるような工夫が。

カウンターやベンチシート、テーブル席などさまざまなタイプの席が用意されています。
座る場所によっても印象が変わるので、複数のシーンの撮影にも使えそう。

可愛らしさと重厚感を兼ね備えたアーチは、「以前オーストラリアのレストランで見て以来、いつかやりたかった」という井澤さんの要望で実現しました。しっかりとした厚みが素敵です。

バーの営業時には、パーソナルな話をしながらしっぽり飲むお客さんに人気の席なんだそう。

奥の部屋は、壁一面に描かれた大きなグラフィックが印象的です。もちろん、「& Supply」のメンバーによって描かれたもの。
通常、撮影スタジオにするなら白壁をつくるのが無難ですが、「LOBBY」はあえて突き抜けた空間に。ラフな撮影でも、しっかり印象的な画が決まりそうですね。

壁際には「& Supply」が手掛けるインテリアグッズブランドの商品が並びます。
店内に飾られたアートワークは、ほとんど井澤さんの知人の作品。 ミニギャラリーとしての機能も持たせているので、ここで個展を開くことも可能です。

全体的な空間づくりでこだわったのは「もともとある物件の良さを残すこと」。そして「未完成さ」。
荒々しさをそのまま残し、作り込まれすぎていない空間にすることで、居心地の良さを目指しました。

メンバーで塗ったという家具や、残されたままの配線、もともと椅子のつもりで買ったチェアを思い切ってテーブルにしてしまっているようなところからも、人間味を感じるような気がします。不自然さがおのずと意味を持ち、かっこよく見えてくるのが不思議。
こだわりと言いつつも、お金がなくて結果的にそうなってしまっただけだと笑う井澤さん。飾らないそのラフさがとても心地良く感じます。
とはいえ、空間への投資として、かけるべきところにはきちんとお金をかけた設計に。基本的に木や無垢などを使用し、特に人の手が触れる場所は自然素材にこだわっています。

未完成さのある空間だからこそ、アイデア次第でさまざまな使い方ができそうな「LOBBY」。居心地がよすぎて、ついつい夜のバータイムにも参戦してしまうかも？

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txt: Aki Murayama
photo: Eichi Tano