【特集|場をひらく】vol.3:アリソン・リエさん「地域にひらき、世代を超えてさまざまな人が集える空間を」 | MEANWHILE

【場をひらく】vol.3:アリソン・リエさん
「地域にひらき、世代を超えて
さまざまな人が集える空間を」

アリソン・リエ

2022.05.30

オーナーのこだわりがつまったユニークな空間のタイムシェアを通して、新しいインスピレーションとつながりに出会えるサービス「MEANWHiLE」。本特集では「場をひらく」をテーマに、これまでにタイムシェアを実践してきた方たちに取材。シェアをはじめたきっかけや、場をひらくことに対する価値観、空間へのこだわりに迫ります。
第3回目は、アリソン・リエさん。設計事務所で働いたのち独立し、オーストラリア人の夫・ヴォーンさんとともに、東長崎で「MIA MIA」というカフェを営んでいます。 それに加え、現在は小さなアパート「壱番館」をリノベーションし、一階部分をシェアオフィス兼ギャラリーとして運営中。地域の人たちと繋がりながら、街全体を盛り上げるべく日々精力的に活動しています。

自分の場をひらき、さらには地域にひらくことを実践し続けるリエさんに、ここに至るまでの経緯や取り組みへの思いについて伺いました。

お店を営む家で育った夫婦が始めた、地域にひらいたカフェ

リエさんとヴォーンさんがともにお店を始める以前、リエさんは建築事務所に勤め、ヴォーンさんはコーヒーを紹介するコーヒーライターとして働いていました。 そんなふたりが出会って結婚。生まれた国こそ違えど、実はふたりにはある共通点がありました。
それは、自営業でお店を営む家庭に生まれ育ったこと。

リエさんは宮崎県の居酒屋、ヴォーンさんはシアターレストランの家に生まれ、幼い頃から自然とお客さんをはじめとしたさまざまな人たちと関わりながら育ってきたと言います。

「家族だけでご飯を食べたことないんですよ(笑)。どこまでプライベートかわからないような、いろんな人が入り込んでくる生活が好きで、一番落ち着くんです。
彼も似たような環境で育ってきたからこそ、一緒に何かをやろうと考えたときに、世代を超えていろんな人と関われることが前提だったし、わたしたちがやるならそうじゃないと意味がないと思っていました」

当時勤めていた設計事務所を辞めてのチャレンジ。どうせならやりたかったことをやりたい。そこで、ヴォーンさんとお互いのやってきたことを掛け合わせて始めたのが、コーヒーなどを提供するカフェ「MIA MIA」です。

お互いの生い立ちに加え、設計事務所にいた頃から、地域のさまざまな世代の人が集まる場所をつくってきたというリエさん。だからこそ、「MIA MIA」もただのおしゃれなカフェではなく、お年寄りも子ども連れの家族も訪れやすく、いろんな人が一緒の空間にいても違和感のない場所にしたいという思いがあったそう。

選んだ東長崎という街には、かつて「長崎アトリエ村」と呼ばれていた画家の人たちが集うエリアもあり、芸術家を応援する空気感が今も残っていて「ここならできるかも」と思ったと言います。

店名の「MIA MIA」とは、オーストラリアの先住民の言葉で、その場にある材料でつくったシンプルな小屋のこと。友人や家族、通りかかった人が集う居場所を表しています。その名前はかなり前から決めており、お店をつくる段階から地域の方たちを巻き込む想定をしていたのだそう。

「『MIA MIA』を、歩いていける範囲で暮らす職人さんとつくりたいと思って募った結果、80代後半の職人さんたちも集まってくださいました。 このエリアの中にいる職人さんたちにお金を落として、その仕事を街行く人たちが見られる状態をつくりたくて、工事中もかなりオープンにしていたんです。するとみなさん『何やってるの?』とか『◯◯さん、まだ大工やってたの!』って結構見にきたりして(笑)。

職人さんの中には若い方もいて、チームづくりの段階から地域にひらいて、多世代の方と一緒にというのは意図的にやっていましたね。関わる人を増やすというのは、お店づくりの一つのプロセスにもなっているはずで、結果的に職人さんたちの家族や親戚の方たちがお客さんとして来続けてくれたりしています」

カフェもギャラリーも、扱うのは「売れ残ってもうれしいもの」だけ。

ヴォーンさんをはじめとしたスタッフの方たちの明るい挨拶が聞こえてくる「MIA MIA 」。コロナ禍でのオープンにも関わらず、すぐに地域の人たちにとっての憩いの場になりました。中には朝から晩までおしゃべりをして帰っていく方もいたりして、昔のサロンのような雰囲気なんだとか。

コーヒーやサンドイッチ、スイーツ、ワインなどメニューは種類豊富で、どの時間帯に来ても楽しめそう。それぞれどんな商品なのか、スタッフの方が丁寧に説明してくれます。

「実は自分たちでつくっているものはほとんどなくて、コーヒー豆やドーナツ、ケーキも、わたしたちがセレクトしたものを紹介して売っているんです。プロダクトも同じですね。 この先、自分が共感するストーリーや姿勢に対してお金を払う時代になっていくだろうなと思ったときに、わたしたちはすごく偏っていてもいいから、一人称でいいと思うものを全力で紹介したいなと。

だから『わたしたちが売れ残ってうれしいものしか売らない』というキーワードでやっています。売れ残ったら自分たちで使ったり食べたりしたいと思う、大好きなものしか置いていないから、むしろ『やった〜!』って感じ(笑)」

さらに面白いのは、いわゆるイマドキのおしゃれなカフェではなかなか見かけない、お年寄りたちが当たり前に店内にいて、ごく自然に若者と言葉を交わしていること。

多様な人が集うことに面白さを感じるふたりが、よりインクルーシブな空間を目指して、地域や多世代にひらくことをやってきたからこそ、見られる景色なんだと感じます。

そして「MIA MIA」をオープンして1年が経つ頃には、シェアオフィス兼ギャラリーを開始。 同じく東長崎にあるアパート「壱番館」の大家さんからのリノベーション依頼がきっかけで、リエさんが1階部分をオフィスにすることを提案しました。

「コロナ禍でリモートワークになったこともあって、意外と東長崎にも若い人たちがいることがわかって。『街の中で若い世代が働いてる姿が見えた方が、みんな元気になりそうな気がする』と大家さんを説得して、シェアオフィスにさせてもらうことになったんです。

アパートの1階に常に誰かがいた方がいいなと思い、週末はわたしやヴォーンがセレクトしたアーティストさんのグッズ販売や作品の展示をすることにしました」

こうして、リエさん自身の建築事務所「ARA」の拠点にもしつつ、ギャラリーとして使うための空間「I AM」が生まれました。「I am=一人称で語る」というイメージで名付けられ、「MIA MIA」と同様にふたりの大好きな人たちがつくる作品が並んでいます。

「MIA MIA」からはしごで訪れる人が多く、常連のお客さんが別のお客さんを「I AM」まで道案内することもあるのだとか。セレクトされた商品たちは、大切な人への誕生日プレゼントなどにも人気なんだそう。

地域の方と協同しながら、街全体を盛り上げたい

カフェやギャラリー以外にも、東長崎のおもしろい場所やお店を取り上げたマップをつくったり、自主的に通りの掃除をしたりと、街全体を盛り上げるために楽しみながら取り組んできたリエさんとヴォーンさん。

「I AM」が入っているアパート「壱番館」は、現在リエさんが大家さんと共に管理をしています。同じ住人や街と選択的に関われる、地域にひらかれたアパートとして共用の畑をつくったり、年に何度かイベントを企画したり。

入口にある「コンポスト(=堆肥)」や、自分の本と自由に交換できる「ブックポスト」は、住人のアイデアから。そこから実際に材料を手配してつくれてしまうのは、建築家のリエさんならでは。ご近所にもお得意さんがいて、ふらっと立ち寄るのだそう。

「街中にこういうカジュアルな管理のマンションが増えると面白いなと思います。たとえば、掃除しているのが顔も名前も知っている管理人だと、住人の方は『ありがとうございます、わたしもやります』と自主的にきれいに使ってくれる。 一方で住人の方にとっても、知っている人の目が届いていると思うと少し安心じゃないですか。だから結構いい仕組みなんじゃないかなって」

自分の「好き」や「やりたい」にまっすぐに取り組むリエさんですが、最後に今後の企みについて聞いてみました。

「やりたいこと……いろいろあるんだよなあ。せっかく東長崎に拠点を構えたので、もうちょっとこの街と一緒に面白いことやりたいですね。
あとはずっと設計をやってきたので、建築家としての新しい姿にもチャレンジしたいと思っていて。今街の便利屋さんみたいな位置が確立されつつあって(笑)、『ここが壊れた』とか『これつくりたい』と声を掛けてもらうことが増えたんです。
そういう状況を生かして、地域の方と協同しながら街を良くするためにできることをプロジェクト化しつつ、ビジネスになる形で提示していきたいですね」

直近では、小学校の庭をひらく取り組みをしているのだそう。さらに、カフェの方でも一つの夢が。

「オーストラリアにもう一店舗『MIA MIA』をつくりたいんです。ヴォーンの出身のメルボルンに。それで、日本とメルボルンどちらにもアンテナを張れる状態にしておいて、両方のプロダクトの紹介やそれぞれのホスピタリティの良さを発信していきたいですね。

あとはヴォーンとわたしの能力を掛け合わせれば、お店のコンセプトづくりから設計、スタッフのトレーニングまでワンストップでサポートすることもできるなあとも考えています。、ただ、今はもうちょっと自分たちの好きなこと、やりたいことをやろうかなと思っています」

「こんにちは!」「元気にしてますか?」「お久しぶりですね~!」

この街に住む人全員が知り合いかと思うくらい、リエさんたちの周りには明るい挨拶とコミュニケーションが自ずと生まれていて、その様がとても印象的でした。

こうしたリエさんたちの取り組みは、街や関わる人たちにポジティブな影響を与え、ローカルで何かやってみたいと思う次世代にとっての、新しいロールモデルにもなっていくはず。そうした5年10年先の未来も見てみたいなと思わされる、素敵な出会いでした。

txt: Aki Murayama
photo: Eichi Tano