オーナーは、建築家の日高海渡（ひだか・かいと）さん。空間設計を手掛ける株式会社 swarmの経営者でもあります。
両親の仕事の都合で、3歳までパキスタンで暮らし、海外製の絨毯や民芸品を集めるのが趣味。祖父母のマンションを引き継いでリノベーションした自宅を、「ヨヨギノイエ」と名付けて事務所兼スタジオとしてシェアしていた経験をお持ちです。その素敵すぎる空間は、さまざまなメディアで取り上げられるほど。

北参道の駅から徒歩4分。外観は、蓮根のようなデザインのバルコニーが印象的なちょっとレトロなマンション。何だか懐かしい気持ちにさせられます。
今回ご紹介するのは、建築家である日高さんの手によってリノベーションされたお部屋「ヨヨギノハナレ」です。
日高さん自身が仕事場として使いつつ、一部のスペースをタイムシェア用に貸し出します。

扉を開けると、ドーンと重厚なアーチがお出迎え。 そこから、上品なカウンターキッチンが顔を覗かせます。
「まず最初に見えるのは、人が集まる場所にしたかった」という、日高さんのこだわりポイント。

一見、オフィスらしからぬ約80㎡のお部屋には、キッチンとミーティングルーム、そしてオフィス用の執務室が二部屋。南向きの大きな窓から、自然光がたっぷりと入る、とても気持ちのいい空間です。

タイムシェアで貸し出すのは、執務室を除いた、キッチンとミーティングルームになります。

ニュートラルな印象のキッチンは、料理教室やホームパーティー、フード撮影に活躍すること間違いなし。
特注でつくったという天板は、木、モルタル、ステンレスの3種類が組み合わされていて、食器や料理に合う材質を選んで撮影が可能。以前、自宅をスタジオ貸ししていた経験を持つ日高さんならではの、細やかな配慮が見えます。

もちろん料理をするだけでなく、作業スペースとしても使えます。
座ったときの作業性を考えて、スツールを少し低めのものにしているのも、ニクい心配りですね。

右手に置かれたデイベッドは、キッチンとは少し質感が変わり、休憩したりリラックスしたりするのにぴったりなラフな雰囲気。出窓に置かれた植物たちに癒されます。
あえて段差をつくって飾られた石や木、床に敷かれた赤い絨毯は、どこか火を連想させます。デイベッドのモルタルにも、着色料を混ぜてほんのり赤くしているというこだわりっぷり。

そして、ちょっと無骨な印象の打ち合わせスペース。
もともとあった壁を切り取ってはめ込まれた正面の白い板には、プロジェクターを投影できます。

撮影当日はお取り寄せ中でしたが、この部屋全体に植物が敷き詰められる予定とのこと。その名も「ミーティングサンルーム」。
植物にとってはサンルーム、人にとっては打ち合わせスペース。たくさんの植物に囲まれての打ち合わせ、ちょっとワクワクしませんか？

手前にはアーチ側に収納できる引き戸がついているので、用途に応じて開閉が可能。
撮影スタジオとして使うときは、すべて開くもよし。「引き」の画も、ばっちり撮影できちゃいます。

もともと、こちらのマンションのオーナーさんから住宅リノベーションの依頼を受けていた日高さん。いざ物件を見てみると、自宅からも近くてサイズ感もぴったり。自宅とは別で、タイムシェア用の物件を持ちたいと考えていた日高さんはひらめきました。
「これ、自分で借りる前提だったら、自由に設計できるんじゃない？」
ということで、オーナーさんに交渉。設計費を無料にする代わりに、工事費負担と、転貸可能への規約変更をお願いして、好きなように設計・リノベーションしちゃったのがこの「ヨヨギノハナレ」です。オーナーさんも、今では「家開き」に乗り気だというから、すごい。

家のような、オフィス。オフィスのような家。
それらの境界線があいまいな空間だからこそ、料理教室でも、撮影でも、打ち合わせでも、自分のやりたいことを持ち込んで、可能性を広げられる場所だと思います。
日高さんとのコミュニケーションからも、何かインスピレーションが生まれるかもしれません。

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txt: Aki Murayama
photo: Eichi Tano